ラナーリ・ボ公使の解説のあと、
長谷川氏とラナーリ氏の対談が行われました。
(長谷川氏)
『マクナイーマ』だと思います」
「1969年に作られたものですが、
64年に軍政が始まって
表現の自由が抑圧されて
自由に群集を撮ったりできなくなりました」
「政治的なメッセージが制限されたときに
何か比喩の形、アイロニーの形、寓喩の形で表わしていく...
つまりストレートに状況を映さないで
何か別のものに置き換えていくのは
よく演出家がとる手法だと思います」
「マクナイーマはジャングルから出てきて
ゲリラの女性に出会ったり
いろいろな事件に巻き込まれて
お土産を持ってジャングルに帰ってくるわけですが
最後は、川から出てくる魔女のような女性に誘われて
彼はその誘いに乗ってしまいます。
彼は最後に食べられてしまいます。
これも、食人主義の象徴だと思います」
「非常にレイジーで女好きなマクナイーマ君が
いろんな目にあいながら
最後は女の人に食べられちゃう、という映画なんですね」
「というわけで私はとても楽しく観たんですが
重要なポイントとして
“食人主義”があると思います」
「戦場で敵と戦ったとき
殺した相手の勇者のいいところを
相手を食べることで自分の中に取り込む...
例えば、相手の勇気を称えて、だとか、
腕をとったり...
つまり、飢えを満たすためではない
食人の習慣というのがあります」
「ブラジルの場合
文化を構築していくための
ひとつの思想や哲学のようなものになって
表現の中に現われてくる、というのがあります」
「ラナーリさんのお話の中でも
“食人主義”に触れられていましたが
この『マクナイーマ』に描かれている食人主義を
どのように捉えられているか
歴史的なことも踏まえながら、お話願えたらと思います」
(ラナーリ・ボ公使)
これは、ひとつのメタファーですね」
「20世紀初頭のブラジルのインテリゲンチャが
ブラジルの独自の文化を構築するための
ひとつの理想として考え出したものです」
「ブラジルは
ヨーロッパのひとつの植民地だったわけですが
そこから文化的に独立するためには
ヨーロッパの文化を貪り喰う必要がありました」
「このメタファーは今日でも
ブラジルの文化の中で何度も現われています」
「『マクナイーマ』ですが
“食人主義”以外にも背景として
地方~から都市への人工の流入という社会問題も
反映されています」
「ブラジルの近代化が直面する
困難な側面も描かれています」
「物語の根底にあるのは
インヂオの伝説です」
「伝説でインヂオは
ジャングルから都会に出て行くわけです。
都会でさまざまな冒険をして
元のジャングルに戻っていきます」
「ジョアキン・ペドロ監督は
原作にはなかった
今日的な問題をうまく織り込んでいます」
「例えば女性ゲリラのエピソードです。
この映画の中で
エロチックな意味で
重要な意味を持っています」
「さきほど長谷川様にも指摘していただいたように
社会的な告発も込められています」
「ここで時代背景についてお話しておきます。
1964年に軍事クーデターがありました」
「最初の4年間の軍事政権は
文化に対する抑圧は、どちらかと言えばゆるやかでした」
「軍事クーデターは
ブラジルの歴史の中の
ひとつの痛ましい過程と解釈することもできます。
ラテン・アメリカではしばしば起こっています」
「1968年に軍事政権が
弾圧をさらに強めるという第二段階に入りました」
「このときに軍事政権はAI5という
軍政令第5号という、弾圧を強化するための規則を発布しました」
「『マクナイーマ』はこの軍政令第5号が発布される前に制作されて
配給は、軍政令第5号の後で行われました」
「ジョアキン・ペドロ監督の娘さんから聞いた話ですが
当時この映画は、カットされて上映されました。
しかしカットされてはいましたが
この映画は上映当初から高い人気を博しました」
「シネマ・ノーヴォの中でも
最も成功した映画だといえます」
「シネマ・ノーヴォはイデオロギー的には意識は高かったのですが
一般大衆との対話、という点では問題がありました」
「『マクナイーマ』は
シネマ・ノーヴォと一般民衆との
垣根を取り払いました」
「さきほど長谷川さんがお話されていた最終シーンですが
これは、もともとのインヂオの伝説でも
主人公は最終的にジャングルに帰って
水の精にむさぼり喰われます」
「“食人主義”も反映されていますが
セクシャルな意味でも重要なシーンです。
私は当時これを観た時に12歳か13歳でしたが
強いインパクトを与えました」
「ヌーヴェル・バーグ...
ゴダールなんかが使っていた手法ですね。
ブリジット・バルドーなどの女性の身体を使って
観客を映画に引き寄せる手法です」
「戦略的に伝説や文学を一般大衆に伝えて
同時に
商業的にも成功をすることができた作品です」
「残念ながらこの映画の後
軍事政権の弾圧はさらにつよくなりました」
「グラウベル・ホーシャ監督はヨーロッパ亡命しましたし
ジョアキン・ペドロ監督は制作を中止して
シネマ・ノーヴォの運動は停滞してしまいました」
さらに続きます...
麻生雅人(あそう まさと)
ブラジルに心を奪われたモノ書き。雑文から音楽評論まで。雑誌は「R25」などに執筆。書籍編集、番組構成、CD監修なども。「ブラジル大作戦」(MUSIC AIR)、「Radio Brisa Brasileira」(STARdigio)が放送中。書籍では「サンバ」、「ブラジリアン・ミュージック」(共にシンコー・ミュージック)など。個人blogでもほぼ毎日ブラジル関連情報紹介中(http://brisabrasileira.pokebras.jp/)。写真はアサイーの故郷トメアスーのCAMTAにて。
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