第9回東京フィルメックスの関連イベントとして
11月26日(水)に丸の内カフェで行われたトークイヴェント
「それぞれのシネマ ブラジル[アート×映画編]」。
映画研究家でもある
ブラジル大使館のジョアン・バチスタ・ラナーリ・ボ公使と
現在「ネオ・トロピカリア」展を開催している
東京都現代美術館のチーフキュレイター
長谷川祐子氏との対談レポート、最終回です。
(長谷川氏)
「ここで少し基本的な質問をさせていただきたいのですが...。
みなさんもご存知のように
ブラジルは人種の坩堝だと言われています」
「坩堝というのは
ヨーロッパの人もアジアの人も
様々な国からきた
移民がたくさんいて
人種がブレンドされている、混ざっている...
そのため
ブラジルは
人種差別があまりなくて
そこがほかの国と大きく違う、と言われています」
「実際、私がブラジルに行ったときも
それは感じます」
「『マクナイーマ』では
主人公は最初、黒人として生まれてきますが
お母さんは白人っぽい人という設定です。
兄弟も白人、黒人が混ざっています」
「マクナイーマは途中で白人に変身するんですが
白人になったマクナイーマと
白人のテロリストとの間に生まれた子供は
また黒人です」
「こういう人種の組み合わせの描き方は
ブラジルの原理を表現しているのか
またく茶化して描いているのか
どうお考えになりますか?」
(ラナーリ・ボ公使)
「ある程度、現実が反映された描き方だと思います」
「『マクナイーマ』の原作者である
マリオ・ヂ・アンドラーヂも黒人の血を受け継いでいます」
「黒人から白人に入れ替わる設定は
コミカルに描かれています
ブラジルの現実を
より捉えやすくする表現だと思います」
「マクナイーマ」
「マクナイーマは
大人の黒人として生まれてきますが
ブラジルの現実を
ファンタジー風に描いた表現だといえます」
「ただ注意しておきたいのは
だからと言ってブラジルに
人種差別がまったくないというわけではない
ということです」
「ブラジルは寛容で
接しやすいという面は確かにあります」
「アメリカ合衆国に比べて
人種が融和されているとも言われています」
「しかし
他の国より明確ではなくても
ブラジルにも人種差別は存在します」
「エリオ・オイチシカも
マンゲイラで仕事をしたときに
そのことをよく分かっていたと思います」
「『マクナイーマ』は
ブラジルの人種差別に関しても
巧みな表現をしていると思います」
「今回、現代美術館の『ネオ・トロピカリア』の展示と
ジョアキン・ペドロの作品の上映が
同じ時期になったというのは
非常に素晴らしい偶然だと思います」
「ブラジルの文化を語る上で
基本的なこととして言わなければならないのは
ブラジルが
不公正な格差のある社会だということです」
「かつてもそうでしたし
今もそうです」
「共産党や左翼系の政治家の影響は
50年代~60年代には強かったと思います」
「シネマノーヴォが始まった頃
グラウベル・ホーシャ(ローシャ)は
現実の世界をまったく反映していないと、
シネマノーヴォ以前にあった映画を
全否定するような
マニフェストを記しています」
「『頭に思想を、手にカメラ』という
有名なフレーズがありますが
それは従来の映画に対する
訣別の宣言の言葉でもありました」
ジョアキン・ペド監督の短編「シネマノーヴォ」。
右がグラウベル・ホーシャ監督。
「“シネマノーヴォ”は
軍事政権によって
さまざまな
ジョアキン・ペドロ監督は逮捕されました
“トロピカーリア”では
カエターノ・ヴェローゾが逮捕されています」
「“トロピカーリア”は
“シネマノーヴォ”とは別の意味で政治的でした」
「さきほど長谷川さんがお話された
エリオ・オイチシカの創作の流れですが
抽象からはじまって
立体の表現に変わって行きました」
「表現の方法、
つまり芸術的な語り方を
自ら変化させていきました」
「エリオは政治的には
共産党など
特定の政党に所属することはありませんでした」
「グラウベル・ホーシャ監督の
『カンセル(癌)』という映画で
エリオ・オイチシカが出演しています」
「『カンセル(癌)』は1968年に
グラウベル・ホーシャが制作した
実験的な映画です」
「エリオ・オイチシカとシネマ・ノーヴォの
数少ない接点のひとつです」
「この映画にはもうひとり
トロピカーリアで重要な
ホジェーリオ・ドゥアルチも出演しています」
「実験的な映画なので
あまりポピュラーではありませんが
非常に重要な作品です」
「もう一人、この映画には
アントニオ・ピタンガという
有名な俳優も出ています」
「当時のブラジルの歴史的な背景ということで
芸術活動の流れの中で言えば
オイチシカは
政治的に活動をしていたわけではありませんが
政治的に、
非常に重要な役割を担っていました」
「芸術のパラダイムを
破壊していきました。
政治的な発言もしています」
「その後、アメリカ合衆国に亡命しました」
ちになみにホジェーリオ・ドゥアルチは
バイーア出身のグラフィックデザイナー。
学生時代からバイーアでグラウベル・ホーシャと交流がありました。
ヒオに上京してからは
エリオ・オイチシカとも交流しています。
『黒い神と白い悪魔』のポスターもホジェーリオの作品です。
ホジェーリオは
カエターノ・ヴェローゾがバイーアからヒオに上京して
最初に暮らしていたアパート式の下宿屋に入り浸り
やがて自身もこの下宿屋の住人になったそうです。
カエターノに多大な影響を与えた人物の一人でもあります。
お話にでてきたホーシャの映画も
今回公開されなかったジョアキン・ペドロ監督の映画も
日本で公開されることを願います!
麻生雅人(あそう まさと)
ブラジルに心を奪われたモノ書き。雑文から音楽評論まで。雑誌は「R25」などに執筆。書籍編集、番組構成、CD監修なども。「ブラジル大作戦」(MUSIC AIR)、「Radio Brisa Brasileira」(STARdigio)が放送中。書籍では「サンバ」、「ブラジリアン・ミュージック」(共にシンコー・ミュージック)など。個人blogでもほぼ毎日ブラジル関連情報紹介中(http://brisabrasileira.pokebras.jp/)。写真はアサイーの故郷トメアスーのCAMTAにて。
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